Styles on the stairs
店内ハンドアウト用 レビュー文
2023.12
新しい椅子は座面が緩やかにカーブした木製のダイニングチェアで、江東区にある倉庫のようなヴィンテージショップの一番奥に潜んでいた。ボーエ・モーエンセンのNo.155。ふかふかのクッションや、意のままに上下するアームレスト、ガス式で昇降する座面…機能的な椅子と呼ばれるそれらの機能を一切持たない、裸ひとつのようなその椅子が、身体と心にぴったりと沿うのを感じて1ヶ月になる。
木が好きだと思う。ガラスや鉄にはない、自然そのままの肌。呼吸を覚えているそのやわらかさに受け止めてもらい、時には吸収してもらったりする。人間の都合で地面から切り離されて、好き勝手な形に変えられてもなお、彼らは静かに佇んでいる。敬意を持って接するような材質。
家にチーク材のファニチャーが増えてから、息がしやすくなった気さえする。
木はめぐる。水と二酸化炭素と土の栄養をめぐらせ、月日も年月もめぐり、時代を経て使い手をもめぐる。その後ろにある途方もない木の記憶。遠くにある深い森の呼吸。いろんなものを愛したくなる。
すべすべの背もたれに手をかけ、ゆっくりと座りこむと、自分のことを考える余裕が少しだけ出てくる。秋はいよいよ傾いて、無機質な冬がむき出しになり、人々は足早に駅へ消えていく。
今年は新調したふかふかのラグと、この椅子を信じれば、やわらかな冬を過ごせそうな気がしている。
Blancpierre.
東京都在住。フォトグラファー・ライター。
アート、文学、写真、音楽と、さまざまな感性とともに日常を過ごす。
2023年12月 Styles on the stairs
店内ハンドアウト用 レビュー文